MSG食品に対するアメリカ国民の実態とは!?

ロサンゼルスでホームステイ中の筆者です。ある日、ホストファミリー宅のキッチンに並ぶ日清のインスタント袋麺に目を留めました。アメリカ市場での人気を裏付けるように、これらの商品はAmazon USの「パントリー」部門でベストセラーの座を占め、日本食品として唯一ランクインしています。同社の報告によれば、2023年から2024年にかけて売上は前年比4.2%増を記録しており、その需要の高さがうかがえます。

(参照:NISSIN公式サイト https://www.nissinfoods.com/product/top-ramen/top-ramen-chicken/ 参照日:2024年12月3日)

しかし、そのパッケージには「NO ADDED MSG」という一文が大きく記載されており、日本では見慣れないデザインが特徴的でした。アメリカで食品パッケージに「Organic」や「Gluten Free」などの表示が目立つことは知られていますが、「MSG」という言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか。そして、アメリカ国民はMSGについてどのような認識を持っているのでしょうか?

 

そもそもMSGってなに?

MSG(グルタミン酸ナトリウム)は、食品の風味を強調する「うま味調味料」として、世界中で広く使われています。その起源は1908年、日本の科学者・池田菊苗による発見にさかのぼります。彼は昆布だしに含まれるうま味成分を分離し、それを食品に応用できる形で商品化しました。この成果により、MSGは「うま味」を科学的に定義する画期的な発明として評価されています。日本では、MSGは調味料や即席食品、スナック菓子など多くの分野で使用されています。特にラーメンやスープの味を深める成分として欠かせない存在です。

(参照:味の素公式サイト https://story.ajinomoto.co.jp/history/020.html 参照日:2024年11月27日)

 

なぜ「No MSG」の記載があるのか?

MSGが食品パッケージに「No MSG」と記載される理由は、1960年代にアメリカで起きた「中華料理症候群」に端を発しています。この現象は、中華料理を食べた後に一部の人々が頭痛や倦怠感を感じたことを発端としており、MSGがその原因ではないかと疑われました。この「中華料理症候群」という言葉はメディアによって広く報じられ、その影響でMSGに対する否定的なイメージが形成されました。

 その後、多くの食品メーカーやレストランが消費者の安心感を得るために「No MSG」をパッケージに記載するようになり、この表示が一種の品質保証のような役割を果たすようになりました。

(参照:東京都保険医療局https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/anzen/anzen/food_faq/shokuten/shokuten08.html 参照日:2024年11月27日)

 

MSGは本当に健康に悪いのか?

MSGが健康に悪影響を及ぼすのかという疑問については、多くの科学的な研究が行われてきました。アメリカ食品医薬品局(FDA)はMSGを「一般的に安全」(Generally Recognized as Safe, GRAS)と認定しており、通常の摂取量では健康に悪影響を与える可能性は極めて低いとされています。同様に、世界保健機関(WHO)や欧州食品安全機関(EFSA)もMSGの安全性について同意見を示しています。

それにもかかわらず、MSGへの疑念が完全には解消されていないのは、過去のイメージが根強く残っているためです。一部の消費者は依然としてMSGを「人工的な添加物」として忌避し、自然食品やオーガニック食品を選ぶ傾向があります。

 

実際にアメリカ国民はMSGについてどう思っている?

FDAの資料によれば、アメリカ国民の中にはMSGに敏感な人々が一定数存在します。また、国際食品情報協議会(IFIC)の調査では、アメリカ人の10人に4人がMSGについて何らかの意識を持っていることが報告されています。この意識は特に、自然食品志向や「クリーンラベル」を重視する層で顕著です。

筆者が訪れたロサンゼルス近郊のスーパーでも、MSGを含む商品はほとんど見かけませんでした。WalmartやKrogerといった大手スーパーのネット販売で調味料カテゴリのベストセラー商品100位までを調べても、MSGを含む商品はランキングには見当たりませんでした。一方で、Amazon USの調味料ランキングでは、トップ100商品のうち「No MSG」と記載されたものが5商品含まれていました。

 このように、大手食品メーカーや小売業者は消費者のMSGに対する懸念を反映し、MSGを使用しない商品の展開を進めているように思えます。

(↑Krogerの傘下にあるRalphsの調味料棚)

 

アメリカでのMSGに関する消費者心理

アメリカでは、「人工添加物」を避ける傾向が広まっています。これはMSGだけでなく、人工着色料や保存料、人工甘味料にも及びます。健康志向の高まりにより、消費者はより「自然な」食品を求め、商品ラベルに記載された「No MSG」や「Non-GMO(遺伝子組み換えでない)」といった表記が購入判断の重要な基準となっています。

さらに、「Clean Label Movement(クリーンラベル運動)」の影響も見逃せません。この運動は、消費者が商品に含まれる成分の透明性を求める動きで、MSGなどの成分が敬遠される傾向を助長しています。

 

アメリカで食品を売っていくために

アメリカ市場におけるMSGの認識は、事実というよりも消費者の感情や心理に基づいていることが多いです。そのため、日本企業がアメリカ市場に食品を展開する際には、MSGを使わない商品の開発や、「No MSG」という表示を活用することが必要になると思われます。

また、MSGの代わりに昆布や椎茸などの自然由来のうま味成分を活用することで、自然食品志向の高い層にもアピールできます。これにより、MSGへの抵抗感を持つ消費者層を取り込み、販売機会を拡大することが期待できます。

 

MSGを活かしたマーケティング戦略

MSGを巡るアメリカでの認識は、過去の誤解や文化的な背景に大きく影響されています。このような消費者心理を理解し、適切な商品展開やマーケティングを行うことで、日本食品はアメリカ市場でさらなる成長を遂げることが可能です。「No MSG」の表記を戦略的に活用することは、単なる消費者安心感の向上にとどまらず、ブランド価値の向上にも寄与するでしょう。

地域ごとの文化や消費者心理を理解し、それに基づいたローカライズ戦略を進めることが、グローバル市場で成功する鍵となります。

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