先日、アメリカで新しく車を新調しようと友人とドライブをしていました。すると助手席からフルーティーないい香りが。そう、日本でも最近利用する人が多くなってきたvapeです。筆者の住むカリフォルニアではタバコを吸う人よりもvapeを吸う人を多く見かけます。
実はvapeを有名にしたのはJUUL Labsというアメリカの電子タバコメーカーで、同社が繰り出した当時の革新的なマーケティングは瞬く間に米国にひろがり、同社のvapeブランド”JUUL”は2017年発売当初、電子タバコ小売市場のシェアの約40%という驚異的な市場を締めていました。
しかし現在JUULはアメリカ国内でその名をあまり聞きません。実は2022年6月にJUUL Labsに対し、現在米国で販売されている同社の全製品の販売禁止命令(MDO)を発令されていたのです。
一体何が起こったのでしょうか?
調べてみるとマーケティング戦略の裏に隠された闇が垣間見えてきました。今回はJUULの行った革新的なマーケティング戦略とその後の販売禁止に至るまでの過程を追いながら米国におけるマーケティングで注意すべき点に関して読み解いていければと思います。
動画
JUULとは
JUUL Labsによって市場に投入されたJUULは、その登場以来、若者に対してタバコをスタイリッシュに訴求しました。特に若者の間で瞬く間に普及したこの製品は、その成功の背景に独自のマーケティング戦略を持っています。本記事では、JUULがどのようにしてその地位を築き上げたのか、そしてその戦略が公衆衛生にどのような影響を与えたのかについて詳しく掘り下げていきます。
JUUL Labsは、電子タバコ業界における主要な企業の一つで、特に若者の間で高い人気を誇る「JUUL」というブランドの電子タバコを販売しています。この会社は2017年に設立され、カリフォルニア州サンフランシスコに本拠を置いています。初の「デジタルネイティブタバコ会社」と評された会社です。
会社概要
JUUL Labsは、元々Ploomという名前で、そして後にPax Labsとして知られていた会社から分離して設立されました。JUULブランドの電子タバコは、すぐに市場でのシェアを急速に拡大し、特にアメリカ市場において顕著な成功を収めました。
製品情報
JUULデバイスは、スリムでUSBメモリのようなデザインが特徴で、使い捨てのポッド(カートリッジ)を使用します。これらのポッドにはニコチンが含まれており、タバコの燃焼による煙ではなく、ニコチンを含む蒸気を吸引することでニコチン摂取を行います。ポッドはフレーバーが多様に用意されており、それが若者を引きつける一因ともなっています。
ビジネスモデル
JUUL Labsのビジネスモデルは、主にデバイスとポッドの販売に依存しています。初期投資としてデバイスを購入した後、ユーザーは定期的に使い捨てのポッドを購入する必要があります。このリピート購入がビジネスの持続可能性を支えています。
ではこのJUUL labsが若者の間で爆発的に売れたにも関わらず、販売禁止になったのか。その成功要因と衰退要因を見ていきたいと思います。
成功要因
①「商品」革新的な製品設計とフレーバーの多様性
JUULの最初の成功要因は、その革新的な製品設計にありました。USBメモリを彷彿とさせるスタイリッシュでコンパクトな外観は、特にテクノロジーに親しみを感じる若者に受け入れられました。また、ニコチン塩を使用したことで、強いニコチンヒットを実現しながらも、吸引時の刺激を抑えることに成功しました。これにより、JUULは従来の喫煙者だけでなく、初めてニコチン製品を手に取る人々にも受け入れられるようになりました。
また、フレーバーの多様性にも支えられています。JUULは、若者に人気のフレーバー(例: ミント、フルーツ、デザート系)を多数提供しました。これらのフレーバーは、特に若者に魅力的であり、従来のタバコ製品にはない新鮮さを提供し、彼らの好奇心を刺激しました。
②SNSを活用したマーケティング
JUULの急成長の裏には、SNSを駆使した斬新なマーケティング戦略があります。特に初期の段階で、オンラインでの製品マーケティングに100 万ドル以上費やすなど、インフルエンサーマーケティングに大きく依存しました。2018 年 3 月 1 日から 5 月 15 日の間だけでも、JUUL の公式アカウントによる投稿を含め、14,838 件の個別の投稿がありました。若者に人気のインフルエンサーを通じてJUULの魅力を発信することで、製品の知名度と興味を劇的に高めることに成功しました。では、知名度と興味を劇的に高めた具体的なマーケティング方法を見ていこうと思います。
インフルエンサーマーケティング:
JUULは、若者に人気のSNSインフルエンサーと提携し、製品の魅力を若者に伝えました。これらのインフルエンサーはInstagramやTwitterなどのプラットフォームでJUUL製品を使用している写真や動画を共有し、製品に対する関心と好奇心を引き出しました。
たとえばInstagramのフォロワー数6000万人以上、当時19歳の Bella Hadidや、当時17歳だったMimi Sweeneyを起用したように「若者」「人気インフルエンサー」にターゲットを絞りました。
パーティーでのハッシュタグキャンペーン:
JUULは300人以上のインフルエンサーに試供品を無料配布しました。それだけでなく、JUULのローンチパーティーを開いて、インフルエンサーを参加させました。パーティー会場にはハッシュタグが書かれた壁があり、ローンチパーティーの参加者は、#Juul、#Vaporized、#JuulVapor などのハッシュタグを付けてSNSで写真を共有するよう奨励されました。パーティーの中では若者に親和性の高い音楽、ファッション、アートを取り入れ、ブランドの若々しさとトレンド感を強調しました。
このキャンペーンは影響を受けやすい10代、20代の若者に効果的でした。「友達が持っているから吸っている」という思考が瞬く間に広がり、商品は売上を伸ばして行きました。
視覚的に魅力的なデザイン:
JUULは、製品の売り出し方はもちろん、製品のデザインにも力を入れました。ミントやクレームブリュレ、マンゴーなどの味のする、USBドライブのような10cmのカラフルなデバイスにしました。このスタイリッシュなデザインを前面に出した視覚的に魅力的なコンテンツは、SNS上で自然に共有されやすいもので、特に若者の間で話題となりました。
このように、JUULはSNSを通じて顧客との直接的なコミュニケーションを行ったことで製品が若者に密接な関係になりました。また、ユーザーが自身の体験を共有することを奨励し、コミュニティ内での口コミを促進しました。
結果、JUULは2017年に1620万台の電子タバコを販売し、2018年までに米国電子タバコ市場の約70%を占めたと言われています。同社の評価額(保有している有価証券等の資産を時価評価して得られた価額)は2018年半ばまでに150億ドルに達しました。
(参照:NEW YORK POST
https://natlawreview.com/article/juul-s-efforts-to-recruit-influencers)
(参照:The National Law Review
https://nypost.com/2023/10/12/how-juul-used-celebs-influencers-to-hook-teens-on-vaping/)
販売禁止理由
しかしながら、これほど売上をあげていた製品が販売禁止に追い込まれました。
連邦政府のデータによると、2019年までに高校生の27.5%、中学生の10.5%が電子タバコを使用していると報告しており、最も多く挙げられたブランドはJUULとのことでした。
未成年者の間での使用が問題視され、多くの保健専門家や規制当局が警鐘を鳴らしました。
また、複数の州が、JUULが中毒性のあるニコチン製品を「違法に」販売し、子供や十代の若者の間で「電子タバコの流行」を引き起こしたとして同社を訴えたことで販売が中止になりました。JUULは、ニューヨーク州やカリフォルニア州を含む6州に4億6200万ドルを支払うことに同意しました。JUULのマーケティング戦略が若者をターゲットにしていたことは、ニコチン依存の拡大に寄与したと指摘されています。これに対して、JUULはフレーバーポッドの種類を減らすなど、自主的な規制を行っていますが、社会からの批判は根強いままです。
訴えられ販売禁止になるとはなんともアメリカらしいですが、タバコという未成年の若者にとって違法な製品にも関わらず、ターゲットを若者にしてしまったことが失敗の要因だと筆者は考えます。
まとめ
JUULのマーケティング戦略は、ターゲットを若者にし、斬新な製品設計とSNSを活用したことによって、売上を伸ばして行きました。当時電子タバコ市場において成功を収めましたが、同時に多くの議論を呼んでいます。SNS世代の若者をターゲットにした戦略は現代では非常に有用であること、彼/彼女らのエンゲージメントの高めるには「染まりやすい」性質を利用してハッシュタグやイベント参加をしたらモノが売れやすいということがこの事例からわかるかと思います。
しかし、JUUL衰退の背景には最も重要法律という観点が抜けて落ちていました。JUULが未成年者を対象にしたマーケティング戦略を取った理由については、多くの議論がありますが、意図的に未成年者をターゲットにしたかどうかは明確ではありません。ただし訴訟大国である米国では製品を普及させるためには商品カテゴリーごとに異なる法律部分の精査と、さらには州ごとに異なる規制の確認が重要でありこの部分をJUUL Labsはスキップしてしまったのかもしれません。
JUULの例は未成年への販売というとても単純な部分でのつまずきでしたが、日本からアメリカに新しく商品を売り出したい企業は自社の商品に関わるあらゆる法律・訴訟事例を調べ、リスクマネジメントをしっかりと行うことが大切だということがおわかりいただけたでしょうか。
弊社では商品自体の定性調査からリスクマネジメントまで米国進出に関わる困り事を解決し、どのように進めれば良いかアドバイスをするだけでなく、一緒に米国進出を進めていく「伴走」というサービスを展開しています。
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