先日、非常にショッキングなニュースが飛び込んできました。アメリカ大手ディスカウントチェーン:99センツ・オンリー・ストアズが全店閉鎖を申告したとのことです。
99センツ・オンリー・ストアズといえば、アメリカで貧乏留学生活をしたことのある方なら一度は訪れたことがある「アメリカの100均」と名高いストア。かくいう筆者も8年ほど前は生活必需品をすべてここで揃えるほど大変お世話になりました。
その老舗雑貨チェーンが閉店…。関連する記事を読むと原因として新型コロナウイルスのパンデミックによるものが大きいとの見解が主だっていました。よくよく思い返してみると1年ほど前、筆者が最後に同店舗を訪れた際には店内では閑古鳥が鳴いており、その頃から経営難の予兆はあったのではないかと妙に納得してしまいました。しかしながらパンデミックの影響を受けた大手チェーンは同社だけではないはずですし、一方でアメリカの大手チェーンでは現在もたくさんの人が集まり盛況なものも多くあります。この違いは一体どこにあるのでしょうか?
そこで本日はパンデミック以降の様々な施策に焦点を当てながら、99センツ・オンリー・ストアズとアメリカ大手雑貨チェーンの間でどのような経営施策の違いがあったのか考察してみたいと思います。
参考:JETRO ビジネス短信
99セントオンリーストアズって?
99センツ・オンリー・ストアズは、アメリカ合衆国のディスカウント小売チェーンであり、1982年にカリフォルニア州ロサンゼルスでデイヴィッド・ゴールドによって創業されました。同社は、すべての商品を99セントで販売するというユニークなビジネスモデルを採用し、消費者からの高い支持を受けています。この斬新なアプローチは、創業以来の大きな成功を収め、同社を特徴づける重要な要素となりました。
その成功を基に、同社は1990年代を通じてカリフォルニア州内で店舗数を増やし、さらにテキサス州、アリゾナ州、ネバダ州へと事業を拡大しました。特に、低価格で質の高い商品を求める消費者の需要に応えることで、同社は成長を遂げてきました。
その成長の一環として、1996年には公開企業となり、ニューヨーク証券取引所に上場しました。この上場で、さらなる拡張と成長のための資金を確保することに成功しました。しかし、2011年にはAres Managementとカナダ年金計画投資委員会によって約16億ドルで買収され、非公開企業へと移行しています。この戦略的な買収は、新たなリソースとサポートを背景に、さらなる成長を目指す重要な一歩でした。
このように、99センツ・オンリー・ストアズの歴史は、革新的なアイデアから始まり、急速な成長と拡大、そして近年の経済的挑戦を経験してきました。
しかし、2024年にまさかの経営破綻。その大きな原因はなんだったのでしょうか?
閉店理由
以前は全ての商品を99セントで販売していた99センツ・オンリー・ストアズでしたが、現在では1ドル99セントや2ドル99セント、さらにはそれ以上の価格帯の商品も扱っています。筆者も「アメリカの100均」と名高い当ストアには学生時代大変お世話になりましたが、数年後に戻ってきて店舗を訪れた際は、「いや、どこが100均だよ!」と感じたのも記憶に新しいです。この頃から予兆はあったのかもしれません。
2020年代に入ると、99センツ・オンリー・ストアズはオンライン小売の台頭や消費者の購買行動の変化といった新たな小売環境の中で、事業継続に向けた挑戦に直面します。特にCOVID-19パンデミックの経済的影響、インフレーションの増加、消費者需要の変化は大きな課題となり、これらの経済的困難は、企業の流動性不足と資産売却の停滞に繋がりました。
これにより、2024年3月28日には、数週間以内に第11章の破産申請を行う可能性があると警告され、4月4日には全371店舗の永久閉鎖と1万4000人の従業員の解雇が発表されました。そして、4月8日には資産および負債が10億ドルから100億ドルの間であると記載して第11章破産を申請しました
(参考:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/99_Cents_Only_Stores 参照日2024年4月10日)
この決定は、パンデミックの影響、インフレーションの増加、消費者需要の変化という複合的な要因が大きかったようです。
経営破綻の大きな要因は?
しかしながらパンデミックの影響を大いに受けながらも大手スーパーマーケットはパンデミック前の賑わいや明るさを取り戻しています。引き続き継続しているショップやストアと99センツ・オンリー・ストアズの決定的な違いはなんだったのでしょうか?成功しているショップが共通して持つ特徴を基に考察してみます。
1. 成功しているディスカウントショップは、デジタルトランスフォーメーションに積極的に取り組んでおり、デジタルマーケティング、顧客とのデジタルコミュニケーションを積極的に行っています。パンデミックが進行する中で、多くの消費者がオンラインショッピングを好むようになりました。この変化に迅速に対応できた企業は、競争優位を確保することができました。
2.サプライチェーンの強化にも注力しています。サプライチェーンへの投資と改善によって、在庫管理の効率化や供給の安定化を図っています。パンデミックによって供給網が混乱する中で、強固なサプライチェーンを持つことは、大きな利点となりました。
3.効果的なコスト管理と効率化も、成功の鍵となっています。低価格を維持しつつも利益を確保できるディスカウントショップは、パンデミックによる経済的な不確実性の中でも、顧客に価値を提供し続けることができるため、支持されています。
これらのポイントは、99センツ・オンリー・ストアズが直面したパンデミックの影響、インフレーションの増加、消費者需要の変化という課題にも当てはまります。
鍵となったデジタルツールの利用
筆者は上記の中でも前述した1.のDX(デジタルトランスメーション)が鍵であったように感じています。その一つとして挙げられるのが ”ストアアプリ”です。アメリカのスーパーやストアでは現在アプリを利用してより手軽に購買ができる仕組みを整えている店舗が多くあり、消費者はアプリ端末から商品のオーダー・発送まで手配できるという仕組みです。
1.オンラインショッピングと配送サービス: WalmartやRalphsのような大手スーパーは、オンラインでのショッピングや配送サービスをアプリ経由で提供しています。これに対し、99センツ・オンリー・ストアズのアプリでは、オンラインショッピングや自宅への配送オプションが限定的であったようです。
2.商品の在庫確認: WalmartやRalphsのアプリでは、リアルタイムでの商品の在庫確認が可能であることが多く、顧客が店舗に行く前に商品があるかどうかを確認できます。一方で、99センツ・オンリー・ストアズのアプリでは、現状確認する限り、このような在庫確認機能が提供されていませんでした。
3.カスタマイズされたショッピング体験: WalmartやRalphsのアプリは、過去の購買履歴や顧客の好みに基づいてカスタマイズされたショッピング体験を提供することがあります。これにより、顧客に対してパーソナライズされた商品推薦が行われます。99センツ・オンリー・ストアズのアプリでは、このような高度なパーソナライゼーションやアルゴリズムがなされていなかった可能性があるようです。
これらの違いは、各企業のビジネスモデルやターゲットとする顧客層、またデジタル戦略の成熟度によって異なります。大手スーパーは一般的により多くのリソースをデジタル化および顧客体験の向上に投資しており、これがアプリの機能性や提供するサービスの幅に反映されているのに対して、99センツ・オンリー・ストアズはそれらの施策に大きく出遅れてしまったことが大きな原因であると筆者は考察しました。
このように、99センツ・オンリー・ストアズの閉店は、複数の外部環境の変化と経営戦略の結果として生じたものです。現在、同社では公式ウェブサイトにて閉店セールが実施されています。これは、閉店とともに在庫処分を進めるための措置であると考えられますが、これまで親しみのあった老舗チェーンが無くなるのは物悲しさを感じます。
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